作成:2019/07/02 更新:2019/07/09
書きかけですが、自分自身の頭の中を一旦整理させてください。山本食品の鋼鮫(はがねざめ)の様に、とにかく試作をし、その評価を専ら官能試験に頼る方法もありです。ですが一応、生ワサビを美味しくすりおろす為の理論を以下に明記します。理論は脳に働きかけ、美味しくさせる重要な要素です。また、実用新案や特許を取得する予定があるのであれば、尚更、こういった理論武装が必要と思われます。さて、
①特殊なミロシン細胞(図1)を破壊する。それに含まれる酵素のミロシナーゼを取り出す。
②①以外の細胞(糊粉細胞等/図1)も壊し、基質のシニグリンとアルコルビン酸(ビタミンC)を取り出す。
③②の基質に若干の水分と①の酵素が接触することにより、加水分解(酵素反応)する(図2)。その際②アルコルビン酸は分解(酵素の活性)を促す。
④最大7分で③の酵素反応が終わり、シニグリンが糖とアリルイソチアシネートに生まれ変わる(図3)。
⑤シニグリンは極めて不快な苦味成分。少なければ少ないほど良い(次回試食サンプルを送ります)。一方、アリルイソチアシネートは辛味だけでなく芳香があり、多ければ多いほど良い。しかしながら、すぐに揮発してしまう為、④の酵素反応終了を待ってはいられない(図4)。
①特殊なミロシン細胞(図1)を破壊し、それに含まれる酵素のミロシナーゼを取り出す。
②①以外の細胞(糊粉細胞等/図1)も壊し、基質のシニグリンとアルコルビン酸(ビタミンC)を取り出す。
<図1 ミロシン細胞>
MC=myrosin cell(ミロシン細胞)
AC=aleurone cell(糊粉細胞/意味不明)
写真Aは大根、写真Bは西洋辛子のもの。ワサビと同じアブラナ科として参考まで。
因みに、ワサビの場合のミロシン細胞は調査中(以下論文にありそう)。サイズや硬さなど、もちろん不明である。
Micro-histochemical observations of myrosin cells in wasabi (Eutrema wasabi Maxim.). [1990]
http://agris.fao.org/agris-search/search.do?recordID=JP19940023744
マイナー故?学術書の表紙を飾ったミロシン細胞
③②の基質に若干の水分と①の酵素が接触することにより、加水分解(酵素反応)する(図2)。その際②アルコルビン酸は分解(酵素の活性)を促す。
<図2 ワサビの酵素反応>
※本反応に水は必須だが、分かり易さを優先して、あえて表記が省略した。
出典:アブラナ科野菜漬物(カブ,ハクサイ)のイソチオシアネート生成に関する塩化ナトリウム (NaCl)およびアスコルビン酸の影響,日本調理科学会誌,49 巻 (2016) 2 号
椙山女学園食育推進センター 客員センター員 中野 典子、わさびの辛味成分と調理
> わさびのミロシナーゼの最適pH 6.5~7
カラシ加工製品の香気持続性について、日本食品工業学会誌第16巻 第10号 1969年10月
> myrosinase活 性 の至 適pHは5.0~6.0,温 度50~60℃ で あ った。
④最大7分で③の酵素反応が終わり、シニグリンが糖とアリルイソチアシネートに生まれ変わる。
<図3 酵素反応の経過時間>
ワサビの保持栽培に関する研究, 塩澤 竜志, 2010年11月
> ロシナーゼ活性は、測定開始後約7分で全てのシニグリンが分解され、反応速度は 0.25 (1/min) 程度
⑤シニグリンは極めて不快な苦味成分。少なければ少ないほど良い(次回試食サンプルを送ります)。一方、アリルイソチアシネートは辛味だけでなく芳香があり、多ければ多いほど良い。しかしながら、すぐに揮発してしまう為、④の酵素反応終了を待ってはいられない(図4)。
<図4 わさびの辛味・香りの発生時間と食べごろ>
出典:わさび博物誌,金印グループ創業75周年記念誌,2004年、非売品
尚、筆者は以上の官能検査の結果を強く支持する。また、鮫皮に対しておろし金が1分づつ遅れているのは、「サメ吉は生産性が高く鮫皮より1分は早くおろし終わる為」と推測している。
<疑問1:細胞の破壊>
<疑問2:攪拌と酵素反応>
<疑問3:揮発の抑止>
よく見ると“わさびの文字”…常識破りの「おろし板」が、実はわさびの味を最も引き出す!?
https://www.fnn.jp/posts/00399710HDK
> わさびは本来、「笑いながら擦れ」と言われるほど、力まず優しく空気を取り込みながら擦ることが重要です。これは、わさびの細胞が壊れ空気に触れることで辛み成分が生成され、粘りも出て、辛味・風味が増すためです。
<疑問4:クリーミーさの追求>
<疑問5:ネガティブイメージの払拭>
Effects of metal ions on myrosinase activity and the formation of sulforaphane in broccoli seed、LIANG H/YUAN Qp/XIAO Q、2006年
(ミロシナーゼ活性における金属イオンの影響とブロッコリー種子におけるスルフォラファン形成)
ミロシナーゼによるからし油配糖体の加水分解によるスルフォラファンの生成とグルコース(ブドウ糖)の遊離に及ぼす金属イオンの影響を調べた。その結果、銅イオンとマグネシウムイオンはスルフォラファンとグルコースの収率を下げた。鉄イオンはスルフォラファンの生成は抑制したが、グルコースの遊離には影響を与えなかった。カルイウムイオンはグルコース遊離の収率を増加させたが、スルフォラファンの生成は抑制した。亜鉛イオンのみがグルコースの遊離とスルフォラファンの生成に有効であった
以上の要約を視覚化すると以下の表となり、金属イオンによって異なることが示唆される。
専ら筆者の推測だが、金属製おろしは、鮫皮のそれと温度が違うため、品質に差が出たのではないか。というのも温度は①ミロシナーゼの活性、②辛味の感受性、その両方に関係があるからだ。
さて、一般的な室内の適温は夏場 25~28℃、冬場で18~22℃とされる。但し、鮫皮は木製なので、断熱効果がある。おろしたワサビは冷蔵庫から取り出した時の温度から、極端に上昇することはないであろう。一方で金属の場合は、これら室温とほぼ同じになるものと考えられる。したがって、金属製ではおろしワサビが18℃以上になる確率は極めて高い。
その結果、①ミロシナーゼの活性が促進され、その分辛味成分が早く揮発してしまった、ということがまず考えられる。個人の食卓で早く食べてしまえば、それはディメリットにはならないが、飲食店の場合は別だ。また②辛味成分は変わらないが、感覚器の感受性が弱まってしまった、ということも考えられるのだ。というのも、ワサビ受容体は、低温(17度未満)で活性するという報告があるからである(諸説あり、詳細後述)。
ところで、カプサイシン(唐辛子)の辛味は味覚ではなく、実は痛覚である。温度覚と呼ばれることもあり、受容体TRPV1により、熱くて痛いと感じる。また、これは次の通り、熱と相乗効果にあることが確認されている。
●炎症性疼痛とTRPA1、辛島裕士、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc/24/4/24_17-0008/_html
> TRPV1は,カプサイシンだけでなく43℃以上の熱や酸にも反応し,さらに熱刺激はカプサイシンに対する作用を増強することが明らかになった.“唐辛子を食べて辛いと感じているところに熱いスープを飲むと,'辛い!'を通り越して痛い思いすらする”というわれわれが日常で感じることのできる現象は,TRPV1の活性化で説明できる.
> TRPA1は,おもに侵害受容性線維に発現し,TRPM8を活性化する温度よりもさらに低い温度(<17℃)で活性化がみられる
一方で、ワサビの辛味はどうか。味覚ではないことは唐辛子と同じだが、TRPA1が活性化する。この受容体はワサビへの感受性が特別に高く、それだけに「ワサビ受容体」と特別な名称が与えられているのであろう。また、寒くて痛いと感じるのはネズミだけにあって、人間には起らないといった報告があったり、諸説ある。TRPA1について温度覚についてはまだ分かっていないことが多いのだ。しかしながら、唐辛子の様に、ワサビの辛味と冷たさに相乗効果がある可能性は非常に高い。ワサビが冷たく冷えた料理と相性が良いのは偶然ではないであろう。
<その他>
(A)熱で酵素反応が促進され、食べごろのタイミングがずれることを防ぐ。
(B)熱で辛味や風味の揮発が加速し、品質が劣化することを防ぐ。
(C)ワサビを味わう感覚器「ワサビ受容体」は、低温(17度未満)の方が感受性が高い。加熱を極力避けることは美味しさに繋がる。
※Aはエビデンス多数。Bについてほぼ常識か。空気中ではなく液体中におけるエビデンス(次表)はある。Cはエビデンスはあるが、詳しいメカニズムまではまだ解明されていない(前述)。
アブラナ属葉菜のイソチオシアネート類の分析条件の検討,阿部 誠,学習院女子大学紀要, 2014
空気を操るトンボから構造のヒントを得て、高性能な扇風機を作る。蚊を模倣して痛みの少ない注射針を開発する。それなら理解できる。しかし鮫は速く泳ぐ為に進化した。世界新記録を量産する水着が作れても、ワサビが美味しくおろせるのは、単なる偶然の産物であろう。よって、私たちは鮫皮だけに捕らわれない。可能な限りエビデンスを積み上げ、ワサビを美味しくする最高性能のおろしを開発する。
乱獲による資源の枯渇に言及