わさびは金気を嫌うか?
作成:2019/06/19 更新:2019/06/19
おろしについて、「わさびは金気を嫌う」との通説がある。しかしそのエビデンスは存在しない。それについて肯定と否定の両面について、それぞれ理由を考えてみた。もちろん素人の仮説ではあるが。
<肯定理由>
- 仮説1)鮫皮の〇〇が触媒として働き、xxを生み、美味しくなる。
- 仮説2)金属の〇〇が触媒として働き、xxを生み、不味くなる。
- 仮説3)〇〇金属イオンがミロシナーゼの活性を阻害する<*1>。
- 仮説4)金属製は鮫皮に比較してテクスチャーが荒くなる。その結果としておろしワサビの表面積が広くなり、香味成分の揮発が促進される<*2>。
- 仮説5)鮫皮に比較してテクスチャーが荒くなる。鮫皮の様に、適度な粗さにより香味成分が適度に味蕾等に届かない。
<否定理由>
- 仮説6)ワサビの栽培には、金属が多い水質が望ましくないことから<*3>、その言葉だけが独り歩きしてしまった。
- 仮説7)かつては製造技術が未熟で、目の細かい金属製のおろしが無かった。その結果、おろし品質が悪いという先入観が定着してしまった。現在は技術的に解決されている。
- 仮説8)本来は酵素の働きを数分待つ必要があるが、金属製は手早くおろせるため、おろしてからすぐ使われることが多い<*4>。おろしてから1分以上待てば良いだけである。
<*1> 次の論文は金属イオンがミロシナーゼの活性に影響を与えることを示唆している。亜鉛イオンはプラス作用で、多くはマイナス作用に働くとのことである。
- Effects of metal ions on myrosinase activity and the formation of sulforaphane in broccoli seed、LIANG H/YUAN Qp/XIAO Q、2006年
ミロシナーゼによるからし油配糖体の加水分解によるスルフォラファンの生成とグルコース(ブドウ糖)の遊離に及ぼす金属イオンの影響を調べた。その結果、銅イオンとマグネシウムイオンはスルフォラファンとグルコースの収率を下げた。鉄イオンはスルフォラファンの生成は抑制したが、グルコースの遊離には影響を与えなかった。カルイウムイオンはグルコース遊離の収率を増加させたが、スルフォラファンの生成は抑制した。亜鉛イオンのみがグルコースの遊離とスルフォラファンの生成に有効であった。
仮に金属イオンによってミロシナーゼ活性への影響が存在するなら、鮫皮も同じ様に影響を受けなければ辻褄が合わない。といのも鮫皮は次の表1の通り、カルシウム(Ca)とマグネシウム(Ng)が含まれているからだ。
- サメ皮の加熱による物性と成分の変化, 日本調理科学会誌Vo1,40,No.2,59~66(2007)〔報文〕https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/40/2/40_59/_pdf/-char/ja
さらに鮫皮には、ナトリウム(Na)金属が多く含まれている。その影響はないのだろうか。鉄にニッケルとクロムを混ぜた合金であるステンレスも同様不明だが、中心となる鉄に準じるのであろうか。影響の及ぼす程度にイオン化傾向も関係するかもしれない。一方、セラミックは排気ガスの触媒として使われることがあるが、陶器製おろしの場合はどうなのか。木製おろしも興味がある。いずれにせよ、それぞれの素材について個別検証が必要であろう。因みに、亜鉛イオンがプラス作用というのなら、亜鉛でおろしを制作したら、ワサビが美味しくなるのかもしれない。
<*2> 過去、より細かいテクスチャーが得られる「カワハギ」の皮でおろしたことがある。また、金属製ではあるが、次の製品はもっとクリーミーとなった。いずれも非常に不味かった。仮に細かいなテクスチャーが正とするのなら、細かければ細かいほど、クリーミーなほど良いという理屈になり、この官能検査の結果は矛盾する。
- 関孫六 なめらかわさびおろし器
ハーフエッチングによる細かい目立てで滑らかできめの細かいわさびがおろせるわさび専用おろし器
<*3> 故横木国臣先生の書籍(ワサビ、農山漁村文化協会)には、次の記載がある。
- 鉄やカルシウム分の極端に多く含まれた水や、特殊な鉱山地帯の水はワサビの生育に良くない場合が多い。
これは当方の経験からしても納得である。というのも匹見は道川地区のワサビの元気がないからだ。ここは、かつて鑪(たたら)製鉄が行われた地域であり、その支流から良質な砂鉄が捕れる。気候も水温も匹見とほぼ変わらない筈であるが、ここでいくらワサビ栽培を試みても、うまく行かない。つまり「ワサビは金気を嫌う」 は、この栽培条件に関する情報が独り歩きしたものではないかと、私は推測する。
因みに7年前から試験栽培を実施しており、50株以上も定植した。しかし残っているのは、写真の1株だけ。一方、ワサビと同じ水温を好むクレソンを植えたら、写真の通り大繁殖した。イギリスのクレソン農家がワサビの栽培を大成功させていることから、ワサビは水温と水質の両方、クレソンは水温だけを選ぶことは間違いないであろう。
<*4> 金印社の社内資料には、食べごろが鮫皮で1~2分、金属製で2~3分とする報告がある。この1分の時差は、鮫皮の方がおろすのに1分程度余計に時間がかかり、その時差がそのまま官能試験の結果に表れたものと推測できる。
<共通>
品質の評価は、主に以下の成分に重みをつけるものとする。
- 辛味(AITC)
- 香気(成分は右参照)
- 甘味
- 粘り
- 苦味(少ないほど良い)
※揮発してしまい測定が不可能な成分は基質の残存量で評価する。
<ワサビの辛味と重要な香気成分>
- アリル イソチオシアネート
- 第2級 ブチル イソチオシアネート
- 3−ブテニル イソチオシアネート
- 4−ペンテニル イソチオシアネート
- 5−ヘキセニル イソチオシアネート
- 5−メチルチオペンチル イソチオシアネート
- 6−メチルチオヘキシル イソチオシアネート
- 7−メチルチオヘプチル イソチオシアネート
出典:金印社 わさびの成分 https://www.kinjirushi.co.jp/wasabi/seibun/
<金属イオン説の検証方法?>
触媒にならないおろし(セラミック製?)でおろす→試験素材に乗せ換える→x分待つ→成分測定
材質は、陶器、鮫皮、鉄、銅、アルミス、テンレス、チタン、亜鉛・・・
待ち時間は1、3、7分(最大7分の根拠は以下)
- ワサビの保持栽培に関する研究
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/122619.pdf
> ミロシナーゼ活性は、測定開始後約7分で全てのシニグリンが分解され、反応速度は 0.25 (1/min) 程度となり、これも部位による差はないものと考えられました。
以下の実験をサメ皮とサメ吉の両方を検証し、サメ吉の道具としての優位性を証明する。
1) シニグリンについて、一般的な日本人の味覚を評価する。
※フリーズドライや冷凍のワサビを食べる。
2) 酵素ミロシナーゼにより7分で全てのシニグリンが分解される<前述>。
※分解が中途半端だとシニグリンの不快な苦さが残り好ましくない。
3) 酵素反応と平行してAITCの揮発が進むスピードを計測する。
※芳香がどんどん抜けてしまう為、2)の分解を待たない方が良いかもしれない。
4) 2)と3)を検証し、最適のタイミングはおろして?~?分かを決定する?
※三浦は最低1分で、ベストは3分と考える。粘り強ければ、1~6分かも。
※金印社の社内資料にはサメ皮で1~2分、サメ吉で2~3分とする報告がある。
この1分の時間差は、サメ吉の高い作業効率に起因するものと三浦は推測している。
※金印社のネットで公開している情報は、何故か大きく異なる<*2>。大人の都合で改ざんか?
5) 刺身に乗せるひと口分として?グラムx人数分のワサビをおろし、その所要時間を計測する。人数は、1名分、2名分、3名分、4名分の4パターン揃えば良いであろう。
6) おろす担当者が1名固定と仮定し、その人が刺身付の夕食をゆっくり食べられるかどうか検証する。その人が大酒飲みの場合、普通にたしなむ場合、全く飲まない場合を考える必要があろう。
※大酒飲みの三浦の場合、サメ皮の場合、2名分で、もうしんどくなる。
<参考>
HOME > わさびの機能性 > わさびの知識 > 辛味(社内資料と異なる結果)
http://www.wasabi-labo.jp/function/knowledge/taste/
> 本わさびはすりおろして3~5分で香り・辛味のピークに達し、美味しく感じるのはその後30分程度です(※)。香りや辛味成分は揮発性が高いため、 短時間で揮発してしまう大変デリケートなものです。
※ この時間については、香り・辛味成分の分析結果、官能による評価をもとに、目安としてあらわしたものです。わさびの品種・産地・季節、すりおろし方法、温度などによって異なります。