以下、農家としての想いを綴りました。今でもこの志は変わっていません。ご参照賜れば幸いです。
This contents is only In Japanese. English version may not come in the future. Since it is very difficult for me to tell you my message in English.
2015/3/6 三浦祐二
「生産技術」といえば聞こえが良いが、人によってはそれを「人間の勝手な都合」と云う。誠に同感だ。我々は、季節も関係なく「大きくなーれ、大きくなーれ。」と常に言い続け、「生産技術」を進化させてきた。その結果はどうか。野菜は明らかに不味くなった。栄養価に至っては60年前の5分の1にも激減した、との報告がなされている(注 1)。さらに、現代人の不妊の原因が F1 種で育った農作物、との仮説すらある(注 2)。「生産技術」は、本来我々の暮らしを豊かにするものなのに、逆に首を絞める結果にはなっていないだろうか。皮肉なものである。
さて、生産技術のひとつ、ビニールハウスは、およそ4つの目的がある。
紫外線は動物のみならず植物にとっても有害だ。移動手段を持たない植物は、強い紫外線から逃れることができない。そこで、紫外線から自らを守る物質(栄養素でもある)を生成する。それが植物というものだ。一方で、ビニールで紫外線をカットすれば、そもそもこんな自己防衛をする必要が無い。それに費やすエネルギーは、全て成長に注がれることになる。
農家によっては、花芽を取り除く。動物でいえば去勢だ。こうすると花や種子に注がれるエネルギーまでも、成長に向けることができる。さらに、季節に関係なく適温が保たれれば、季節に関係なく成長し続けなければならない。ホルモンで発芽処理させられるのは常識だ。つまり、発芽から収穫まで。野菜には、休息がまるで無いのだ。仮に、野菜に感情があるとしたら、どんな気持ちになるのであろうか。
畜産の分野はどうか。砂に埋めて運動不足にさせ、無理やり給餌させるのが北京ダックだ。フォアグラはさらに進化し、吐き出さない様に口からチューブを差込み、胃袋に直接給餌する。病気になって肥大化した肝臓は高級食材として歓迎される一方で、人によっては、これらの生産技術を「虐待」という表現を使う。 和牛も似たようなものかもしれない。人間の食べられない草を食べさせて、人間が食べられる肉にする。これが本来の畜産だ。しかし和牛は、「霜振り」にする為に、大量の穀物を与える。人間でいえば「メタボ」、当然不健康になる。中には余りの肥満に、自分の体重を支えきれなくなることもある。立てず、寝返りもできず、横になったまま。こうなると、腸内の発酵熱で数時間後には死んでしまうのだ。ある畜産家はこう呟いた。「生きるか死ぬかのギリギリのところで育てないとランクが高い肉質にならない。牛が可哀想だと思うが、飯を食っていくためには致し方が無い。」と。
これまで「生産技術」について否定的な見解を挙げてきた。でも私はワサビの生産者だ。これで食べて行かなくてはならないし、一方的に否定ばかりしていたら、食べて行けなくなるのは明白だ。大切なのは「人間の都合」と「自然の摂理」とのバランス。自らの良心に日々問いかけながら、健康で美味しいワサビを育てていきたい。
(1)マイナビニュース・野菜の栄養価、昔と今ではこんなに違う!?
http://news.mynavi.jp/c_career/level1/yoko/2013/01/post_2874.html
(2)野口 勲「ミツバチは、なぜ巣を見捨てたか?」
http://noguchiseed.com/hanashi/mitsubachi.html