おろし色
COLOR
作成:2015/02/18 更新:2019/04/08
山葵のおろし色は何か?その問いに対して多くの人は「緑色」と答えるでしょう。しかし結論を先に言えば、必ずしも緑色とはいえません。鮮やかな緑色は主に静岡県産の特徴であり、島根在来種の多くは、淡い緑色です。黄色であったり白色のものもあります。この違いは、より暗い環境を好み、ゆっくりと育つからでしょう。
ところで、妻は関西出身です。結婚前、山葵はどんな色かと彼女に尋ねると、「淡い緑色」と答えました。その理由はなんでしょうか。これは私の山葵農家の師匠から聞いたことです。かつて、島根の山葵は関西市場を席捲していました。というのも京都の料亭などには、舌の肥えた多くの板前がいて、食味を好んで島根産を指定して買ってくれたのです。また寿司職人にとっては、次の3つの機能面も重要で、島根産を好んだ理由としてありました。
- 粘りが強いので、寿司を握るうえで都合が良い。アワビ等シャリから滑り易いネタであっても、ぴたっと接着させることができ、落下させることがない。
- 色が濃い山葵を使うと、烏賊や白身魚で透けてしまい、見栄えが悪い。色が薄い方が見た目が美しく、美味しそうに映える。
- 山葵が透けて見えると、ケチケチしてネタを薄したものと、逆にお客様に誤解されることがある。
だから関西で山葵といえば、イコール「島根ワサビ」であり、淡色と決まっていた時代があったのです。因みに、島根山葵が大人気だった頃の名残が、今でもあります。山葵加工品トップメーカーの金印社では、粉ワサビに関東風と関西風の2種類を用意しております。以下で「関西色 淡色」という表記が確認できることでしょう。
では、なぜ一般的には、緑色の印象が強いのでしょうか。まず考えられるのは山葵加工品の影響です。例えば、わさび味と称するスナック類のパッケージのほとんどが、濃い緑色が使われています。これが我々の深層心理に刷り込まれているのでしょう。
もうひとつの理由は「全国わさび品評会」です。次の審査基準の通り、最終審査で「緑が濃い山葵が品質が良い」とされてしまったからです。その為、全国の山葵農家は緑の濃い品種を競って栽培する様になりました。淡色のワサビの方が、美味しいことが経験的に多いのですが、実際は偏った現象が起きています。
2次審査の様子。味は評価しない。
現在、山葵の品評会は、山葵が食品でありながら、専ら「外観」で評価しています。というのも、1次審査で外観、2次審査でも外観、3次審査になってやっと食味審査をするからです。但し3次といえども、配点30点は外観(色)の審査です。いくら美味しい山葵を出品しても、外観が悪ければ入賞できないルールなのです。少々乱暴な例えですが「肌の色が違うと採用されない」。そんな入社試験みたいなものでしょうか。
<参考文献>
小川哲郎ほか、地域食材大百科〈第2巻〉野菜、農山漁村文化協会、2010/5/15
山根京子氏、世界から愛される和食に不可欠なワサビの危機、2015.09.14
http://www.kosuke-ogawa.com/?eid=3566
全国わさび生産者協議会、第29回全国わさび品評会配布資料、2014.10.22